条文の読み方;基本編①

(注記)ここでは平成32年4月1日施行予定の民法の規定を前提に説明しています。


【要件と効果】

今回は,条文の読み方について説明します。具体例として民法601条を見てみましょう。

(民法601条)  賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。

民法601条は「どのようなことがあれば,賃貸借契約が効力を生ずるか」という質問に答える形で書かれています。この質問に対して民法601条は,

賃貸借契約は,

  • 当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,
  • 相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約すること

…によって,その効力を生ずる。

と規定しています。民法601条の冒頭部分と最後の部分すなわち「賃貸借契約は」の部分と「その効力を生ずる」の部分をつなげると,「賃貸借契約はその効力を生ずる」という文章になります。この「賃貸借契約はその効力を生ずる」の部分を条文が規定している「効果」と言います。

「賃貸借契約は」と「によってその効力を生ずる」の間にはさまれている部分には,賃貸借契約がその効力を生ずるために必要な条件が書かれています。この必要な条件のことを「要件」と言います。

つまり民法601条の要件は,

  • 当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,
  • 相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約すること

の2つであり,同条の効果は,「賃貸借契約が効力を生ずること」です。

このように条文は,要件と効果の2つで構成されています。多くの条文はここで示した民法601条と同じように,「によって」の前の部分に要件が書かれています。また,条文の主語(民法601条の場合には「賃貸借契約は」の部分)と「によって」より後の部分をつなげるとその条文の効果になります。

ポイント;条文は要件と効果で構成されている

【何について書かれているのかを読み取ろう】

民法601条を冒頭から読んでいくと,「当事者の一方が」という言葉が出てきます。民法601条は賃貸借契約の効力に関する条文なので当事者は賃貸人か賃借人のいずれかなわけですが,条文を冒頭から読んでいる段階ではこの「当事者の一方」が賃貸人のことなのか賃借人のことなのか良く分かりません。しかし,もう少し読み進めていくと「ある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し」というフレーズが出てきます。賃貸借契約で物の使用を相手方にさせるのは賃貸人ですから,民法601条の「当事者の一方」とは賃貸人のことを指すということが分かるでしょう。もし「当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し」という部分を読んでも「当事者の一方」が賃貸人・賃借人のいずれのことを指すのかが分からなかったとしても,その後に続く「相手方がこれに対して賃料を支払う」という部分を読むと,賃料を支払うのは賃借人ですから民法601条の「相手方」が賃借人だということが分かるでしょう。民法601条の「相手方」が賃借人だということが分かれば,残っているもう一方の当事者は賃貸人だということに気づくことができます。そうすると民法601条の「当事者の一方」が賃貸人だということが分かります。

このように冒頭から読んでいて分からなかったとしても,後の方まで読み進めていき,分かりやすいところから言葉の意味を考えていくという方法を取ることで,何について書かれているのかを読み取ることができる場合があります。