(注記)ここでは平成32年4月1日施行予定の民法の規定を前提に説明しています。それ以前の規定は(旧)をつけて区別しています。
今回は、「債権」について説明します。
具体例で確認してみよう
【Case1】 Aは自分が所有している「テキスト甲」を1000円でBに売るという契約を2020年4月1日に締結した(以下これを「本件売買契約」という)。
AとBとの間に締結された本件売買契約に基づいてAがBに対してどのような権利を有しているかを確認してみましょう。Aは売買契約の売主ですから、買主であるBに対して「代金1000円をAに支払ってくれ」と請求することができます。この権利は、「債権」の一種です(「代金を支払ってくれ」と請求することができる権利なので「代金債権」といいます)。
では、「本件売買契約の代金1000円をAに支払ってくれ」とAがCに対して請求したとして、このような請求は認められるでしょうか。
代金を請求する権利は売主が買主に対して有している権利です。他方でCは本件売買契約の買主ではありませんから、売主AはCに対して「代金1000円を支払ってくれ」と請求する権利を有していません。したがってAのCに対するこの請求は認められません。
また、本件売買契約の売主ではないDがBに対して「本件売買契約の代金1000円を自分に支払ってくれ」と請求しても、この請求は認められません。
債権者・債務者
Aだけが、本件売買契約の代金1000円を請求することができる人です。また、Aが代金を請求することができる相手はBだけです。
このように、権利を行使することができる人(=権利者)は特定の人です。また、権利内容の実現を請求する相手(=義務者)も特定の人です。
債権の権利者のことを「債権者」、債権の義務者のことを「債務者」といいます。
債権の内容はさまざま
本件売買契約に基づいてBはAに対してどのような権利を有しているでしょうか。Bは本件売買契約の買主ですから、売主Aに対して「テキスト甲を引き渡してくれ」と請求する権利を有しています。
本件売買契約から「金銭を支払ってくれ」「物を引き渡してくれ」という2種類の内容の債権が発生していることが分かります。
債権の内容は、金銭の支払いや物の引渡しだけではありません。【Case2】をみてみましょう。
【Case2】 Eは、Fとの間でEが2時間ピアノを弾き、これに対してFが演奏の代金として2万円を支払う契約を2020年4月1日に締結した。
この契約に基づいてFはEに対して「ピアノを2時間演奏してくれ」と請求する権利を有しています。
このFのEに対する債権のように、お金の支払いや物の引渡し以外の行為を債務者にしてもらうことが権利内容になる場合もあります。
債務とは?
【Case1】のAのBに対する代金債権をBの側からみてみましょう。BはAに対して代金1000円を支払う義務を負っています。この義務の義務者はBという特定の人であり、この義務の権利者はAという特定の人です。債権を債務者の側からみて表現したのが「債務」です。
まとめ;債権とは?
債権は、ある特定の人(債権者)が、他の特定の人(債務者)に対して有している権利です。
債権の内容はさまざまです。ここまでの説明では「代金を払ってもらう」「物を引き渡してもらう」「ピアノを演奏してもらう」といったように債務者が何らかの行為を行うタイプの債権についてみてきましたが、これとは逆に「債務者が何らかの行為を行わないこと」を権利内容にする債権もあります1。そこで基本書等では「何をしてもらう権利なのか」という部分は、「ある特定の行為をすること(あるいはしないこと)」と表現されます。
以上をまとめると、債権とは「ある特定の人(債権者)が他の特定の人(債務者)に対して、ある特定の行為をすること(あるいはしないこと)を請求しうる権利」と定義することができます。
- 「債務者が何らかの行為を行わないこと」例;EがFとの間で「Eは夜10時以降はピアノを演奏しない」という契約をした場合に、この契約に基づいてFがEに対して有する債権。 ↩