【債権法改正メモ】400条の改正

改正点:

目的物の保管に関する善管注意義務が「その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意」に改められた。

【現】

(特定物の引渡しの場合の注意義務)

第四百条 債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。

【新】

(特定物の引渡しの場合の注意義務)

第四百条 債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。

【債権法改正メモ】483条の改正

改正点:

「契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らしてその引渡しをすべき時の品質を定めることができないとき」にのみ特定物の現状引渡しが認められるとした。

【現】

(特定物の現状による引渡し)

第四百八十三条 債権の目的が特定物の引渡しであるときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。

【新】

(特定物の現状による引渡し)

第四百八十三条 債権の目的が特定物の引渡しである場合において、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らしてその引渡しをすべき時の品質を定めることができないときは弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。

【債権法改正メモ】(現)480条の削除

改正点:

受取証書の持参人に対する弁済に関する規定の削除

【現】

(受取証書の持参人に対する弁済)

第四百八十条 受取証書の持参人は、弁済を受領する権限があるものとみなす。ただし、弁済をした者がその権限がないことを知っていたとき、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。

【新】

削除

【改正理由】

審議会の資料では以下のように説明されている1

民法第480条は,受取証書の持参人であれば債権者から受領権限を与えられているのが通常であるとして,受取証書の持参人に対して弁済した者を特に保護する趣旨 から,同法第478条とは異なり,受取証書の持参人に対する弁済の効力を否定する側に,弁済者の主観的要件の主張・立証責任を課している。
しかし,このような民法第480条の趣旨に対しては,①受領権限の証明方法として重要なものは,受取証書の持参以外にもあり,受取証書の持参についてのみ特別な 規定を設ける必要性が低いと考えられること,②同条が適用されるには,真正の受取 証書の持参人であることを弁済者が立証する必要がある(後記判例参照)と考えられるところ,真正の受取証書の持参人に対する弁済であることが立証されたのであれば, 弁済者の善意無過失を事実上推定してよいと考えられることから,同法第478条が 適用される場合と本質的な相違はないこと等の指摘があり,これらを理由として,同法第480条の存在意義を疑問視する見解が主張されている。また,判例(大判明治 41年1月23日新聞479号8頁)によると,同条は真正の受取証書の持参人につ いてのみ適用され,偽造の受取証書の持参人については,同法第478条が適用され るところ,受取証書が真正か偽造かによって適用される条文が異なるのは分かりにくいという指摘もされている。
以上のような指摘を踏まえ,本文では,民法第480条を削除し,受取証書の持参人に対する弁済についても同法第478条の適用に委ねることを提案している。


  1. 部会資料39・17頁

【債権法改正メモ】477条の新設

【改正点】

振込による弁済の効力発生時期に関する規定が新設された。

【現】

規定なし

(現)477条は「弁済として引き渡した物の消費又は譲渡がされた場合の弁済の効力等」について規定。

【新】

(預金又は貯金の口座に対する払込みによる弁済)

第四百七十七条 債権者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってする弁済は、債権者がその預金又は貯金に係る債権の債務者に対してその払込みに係る金額の払戻しを請求する権利を取得した時に、その効力を生ずる。

【関連情報】

(現)477条は「弁済として引き渡した物の消費又は譲渡がされた場合の弁済の効力等」について規定しているが,これは(新)476条に移動した。なお(現)476条は削除された。

★現行規定

(弁済として引き渡した物の取戻し)

第四百七十六条 譲渡につき行為能力の制限を受けた所有者が弁済として物の引渡しをした場合において、その弁済を取り消したときは、その所有者は、更に有効な弁済をしなければ、その物を取り戻すことができない。

(弁済として引き渡した物の消費又は譲渡がされた場合の弁済の効力等)

第四百七十七条 前二条の場合において、債権者が弁済として受領した物を善意で消費し、又は譲り渡したときは、その弁済は、有効とする。この場合において、債権者が第三者から賠償の請求を受けたときは、弁済をした者に対して求償をすることを妨げない。

【債権法改正メモ】473条の新設

改正点:

債務者が債権者に対して弁済をしたときに債権が消滅する旨の規定が挿入された。

【現】

規定なし

【新】

(弁済)

第四百七十三条 債務者が債権者に対して債務の弁済をしたときは、その債権は、消滅する。

【メモ】

法制審の資料によれば(新)473条が規定された趣旨は次のとおりである1

  • 弁済によって債権が消滅するということは,民法上の最も基本的なルールの一つであるが,そのことを明示する規定は置かれておらず,現行法上は弁済に関する規定が「債権の消滅」という節に置かれていることから弁済が債権の消滅原因であることを読み取ることができるのみである。
  • 基本的なルールはできる限り条文上明確にすることが必要であるという考慮に基づいて,弁済によって債権が消滅するということを(新)473条で明文化した。

【関連情報】

(現)473条は「無記名債権の譲渡における債務者の抗弁の制限」に関する規定が置かれているが,この規定は削除された。

(無記名債権の譲渡における債務者の抗弁の制限)

第四百七十三条 前条の規定は、無記名債権について準用する。


  1. 民法(債権関係)部会資料39・1頁

【債権法改正メモ】125条の改正

改正点:

(現)125条の「前条の規定により」という文言が削除された。

【現】

(法定追認)

第百二十五条 前条の規定により追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。

一 全部又は一部の履行

二 履行の請求

三 更改

四 担保の供与

五 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡

六 強制執行

【新】

(法定追認)

第百二十五条 追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。

一 全部又は一部の履行

二 履行の請求

三 更改

四 担保の供与

五 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡

六 強制執行

【債権法改正メモ】124条の改正

改正点:

  • (現)124条1項及び2項が(改)124条1項にまとめられる形が採られた。
  • (現)124条3項が(改)124条2項1号に移動した。
  • (改)124条2項2号で,取消の原因となっていた状況が消滅する前に追認ができる場合に「制限能力者(成年被後見人を除く。)が法定代理人,保佐人又は補助人の同意を得て追認するとき」が追加された。

【現】

(追認の要件)

第百二十四条 追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅した後にしなければ、その効力を生じない。

2 成年被後見人は、行為能力者となった後にその行為を了知したときは、その了知をした後でなければ、追認をすることができない。

3 前二項の規定は、法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認をする場合には、適用しない。

【新】

(追認の要件)

第百二十四条 取り消すことができる行為の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後にしなければ、その効力を生じない

2 次に掲げる場合には、前項の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅した後にすることを要しない。

一 法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認をするとき。

二 制限行為能力者(成年被後見人を除く。)が法定代理人、保佐人又は補助人の同意を得て追認をするとき。

【債権法改正メモ】122条ただし書の削除

改正点:

(現)122条ただし書が削除された

【現】

(取り消すことができる行為の追認)

第百二十二条 取り消すことができる行為は、第百二十条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない。ただし、追認によって第三者の権利を害することはできない。

【新】

(取り消すことができる行為の追認)

第百二十二条 取り消すことができる行為は、第百二十条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない。

【関連情報】

(現)民法122条ただし書について以下のような指摘がされていた1

 取り消すことができる行為が追認されると,以後,行為は完全に有効なものとして確定する。かつて122条本文は,追認によって「初ヨリ有効ナリシモノト看做ス」とされていたが,もともと一応は有効なものであるからミス・リーディングな表現であり,現代語化によって「以後,取り消すことができない」と改められた。しかし,現在も残る但書の「追認によって第三者の権利を害することはできない」の意味は,必ずしも明らかでない。従前も有効であったものが〔追認によって〕有効に確定しただけであり,追認があったから第三者の権利が特別に害されるという事態は想定しがたい。

また,民法122条ただし書削除に関する提案についての説明は以下のとおりである2

民法第122条ただし書は,取り消すことができる法律行為の追認によって第三者の権利を害することはできないと規定している。しかし,追認は,不確定ではあるものの有効と扱われている法律行為を確定的に有効とするに過ぎず,第三者の権 利を害することはないから,同条ただし書は不要な規定であると考えられている。 そこで,本文は,同条ただし書の規定を削除することを提案している。


  1. 河上正二『民法総則講義』(日本評論社・2007年)427頁。
  2. 民法(債権関係)部会資料29・47頁。

【債権法改正メモ】121条ただし書の削除

改正点:

(現)121条ただし書が削除された。

【現】

(取消しの効果)

第百二十一条 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。

【新】

(取消しの効果)

第百二十一条 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。

【関連情報】

121条の2(新設規定)1項が「無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は,相手方に対して原状に復させる義務を負う」と規定しており,同条3項が,「第一項の規定にかかわらず、行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても、同様とする。」としている。

【債権法改正メモ】121条の2の新設

改正点:

無効の効果としての当事者の相手方に対する原状回復義務に関する規定が新設された。

【現】

規定なし。

【新】

(原状回復の義務)

第百二十一条の二 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。

2 前項の規定にかかわらず、無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であること(給付を受けた後に前条の規定により初めから無効であったものとみなされた行為にあっては、給付を受けた当時その行為が取り消すことができるものであること)を知らなかったときは、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。

3 第一項の規定にかかわらず、行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても、同様とする。