条文の読み方;基本編③

(注記)ここでは平成32年4月1日施行予定の民法の規定を前提に説明しています。それ以前の規定は(旧)をつけて区別しています。


今回のテーマ

複数の条文の内容から制度全体を理解する①

今回のテーマは、「複数の条文の内容から制度全体を理解する①」です。今回は、「未成年者が行った法律行為の取消し」について学習しながら「複数の条文の内容から制度全体を理解する」方法を学習しましょう。


まず、はじめに今回の学習に必要な条文を以下に示します。いずれも民法の条文です。

第4条 年齢二十歳をもって、成年とする。

第5条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。

2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。

第818条1項 成年に達しない子は、父母の親権に服する。

第824条 親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。


1つの条文だけでは必要な情報の全てを得ることはできない

 まず、民法5条1項をみてみましょう。民法5条1項は、「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。」と規定しています。同項からは、未成年者が法律行為をする場合には原則として法定代理人の同意が必要であること、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については例外的に法定代理人の同意が不要であることが分かります。しかし、この同項だけでは、「何歳までが未成年者か」「法定代理人」とは誰か」「法定代理人の同意を得ずに未成年者が法律行為を行った場合にどうなるのか」といった情報を得ることはできません。

 これらの情報を得るためには、それぞれについて規定してある他の条文を確認する必要があります。以下で、各条文の内容を確認してみましょう。 

未成年者とは?

 ここで、民法4条をみてみましょう。民法4条は、「年齢二十歳をもって、成年とする。」と規定しています。20歳からが成年なわけですから、20歳になる前までが未成年者です。

(情報その1)

民法4条に基づき、未成年者とは二十歳未満の者のことを指す。

法定代理人とは?

 次に、法定代理人とは誰かについて規定している条文を確認しましょう。この点について規定しているのは民法824条本文です。民法824条本文は「親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。」と規定しています。ここに書かれている「その子を代表する」とは、「自分の子どもを代理する」という意味です。代理することが法律によって定められている訳ですから、親権者は、法定代理人だといえます。

(情報その2)

民法824条に基づき、親権者は、子の法定代理人である。

 民法824条本文には「親権者とは誰か」について何も書かれていません。これについては民法818条1項が「成年に達しない子は、父母の親権に服する」と規定していますから、同項に基づき未成年者の父母は未成年者の親権者です。

(情報その3)

民法818条1項に基づき、未成年者の父母は未成年者の親権者である。

 (情報その2)と(情報その3)を合わせて読むと未成年者の父母は未成年者の法定代理人だといえます。

(情報その4)

民法818条1項に基づき未成年者の父母は未成年者の親権者であり、民法824条に基づき親権者は子の法定代理人である。したがって、未成年者の父母は未成年者の法定代理人である。

同意を得ていないとどうなるか

 これについては民法5条2項が「前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。」と規定しています。「前項」すなわち民法5条1項に反する法律行為は、取り消すことができることになります。

(情報その5)

 民法5条2項に基づき、民法5条1項に反する法律行為は、取り消すことができる。

 民法5条2項の「前項の規定に反する法律行為」とは何のことを指すかを確認しておきましょう。条文の読み方(基本編②)で説明したとおり、未成年者が法律行為を行うには原則として法定代理人の同意が必要です(民法5条1項本文)。ただし、「単に権利を得、または義務を免れる法律行為」については法定代理人の同意は不要です(同項ただし書)。したがって、民法5条2項の「前項の規定に反する法律行為」とは、法定代理人の同意を得ないで行われた法律行為(ただし単に権利を得、または義務を免れる法律行為を除く)です。

ここまでのまとめ

(情報その1)から(情報その5)までをまとめると、

20歳未満の者が、その父母の同意を得ずに「単に権利を得、又は義務を免れる法律行為以外の法律行為」を行った場合には、その法律行為を取り消すことができる。

ということになります。

法律学を学習するためには、ここで説明したような方法で、複数の条文を参照して必要な情報を入手しなければならない場合が殆どです。

条文の読み方;基本編②

(注記)ここでは平成32年4月1日施行予定の民法の規定を前提に説明しています。それ以前の規定は(旧)をつけて区別しています。


今回のテーマ

;1つの条文に原則と例外が書かれている場合の条文の読み方

 今回は、条文の読み方(基本編)の2回目です。今回のテーマは「1つの条文に原則と例外が書かれている場合の条文の読み方」です。

読み方の学習用の素材にするのは、民法5条1項です。まずは、条文を確認しておきましょう。

(民法5条1項)

未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。

条文の読み方の基本ルール

民法5条1項は2つの文章で構成されています。

他の条文にも同じような構成(構造)のものが多くあります。

条文の「ただし」の前の一文のことを「本文」といいます。民法5条1項の「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。」という部分は、「民法5条1項本文」といいます。

「ただし」以下の一文は、「ただし書」といいます。民法5条1項の「ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。」という部分は「民法5条1項ただし書」といいます。

本文とただし書の関係

 各条文の「本文」は、原則を規定するものです。民法5条1項本文は「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。」と規定しています。

 なお、「法律行為」について詳しくは民法総則の授業で勉強してください。今のところは「契約を締結したりすること」と認識しておいてくれれば大丈夫です。また「法定代理人」の典型例は「親」です(詳しくは家族法の授業で勉強してください)。

 民法5条1項本文は、「未成年者が法律行為をする場合」に関する原則を定めるものです。その原則とは、「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない」というものです。

(重要ポイント①)

各条文の「本文」は原則を定めるものである。

 次に、「ただし書」について説明します。「ただし書」は、条文の本文が定めていることの例外を規定するものです。

 民法5条1項ただし書は、「ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。」と規定しています。「この限りでない」とは、その条文の本文が規定している原則を適用しないという意味です。

(重要ポイント②)

ただし書の「この限りでない」とは、その条文の本文が規定している原則を適用しないという意味である。

民法5条1項の場合でいえば、

原則;未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。

例外;単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、その法定代理人の同意を得なくてよい。

・・・このように規定されています。

つまり民法5条1項は、「未成年者が法律行為を行う場合」を①単に権利を得、又は義務を免れる法律行為を行う場合と②①以外とに分類し、①については例外的に法定代理人の同意を不要とした規定だといえます。

このように、ただし書は、本文で規定していることの例外を定めています。

(重要ポイント③)

ただし書は、本文で規定していることの例外を定めるものである。

用語説明②債権

(注記)ここでは平成32年4月1日施行予定の民法の規定を前提に説明しています。それ以前の規定は(旧)をつけて区別しています。


今回は、「債権」について説明します。

具体例で確認してみよう

【Case1】  Aは自分が所有している「テキスト甲」を1000円でBに売るという契約を2020年4月1日に締結した(以下これを「本件売買契約」という)。

AとBとの間に締結された本件売買契約に基づいてAがBに対してどのような権利を有しているかを確認してみましょう。Aは売買契約の売主ですから、買主であるBに対して「代金1000円をAに支払ってくれ」と請求することができます。この権利は、「債権」の一種です(「代金を支払ってくれ」と請求することができる権利なので「代金債権」といいます)。

では、「本件売買契約の代金1000円をAに支払ってくれ」とAがCに対して請求したとして、このような請求は認められるでしょうか。

代金を請求する権利は売主が買主に対して有している権利です。他方でCは本件売買契約の買主ではありませんから、売主AはCに対して「代金1000円を支払ってくれ」と請求する権利を有していません。したがってAのCに対するこの請求は認められません。

また、本件売買契約の売主ではないDがBに対して「本件売買契約の代金1000円を自分に支払ってくれ」と請求しても、この請求は認められません。

債権者・債務者

Aだけが、本件売買契約の代金1000円を請求することができる人です。また、Aが代金を請求することができる相手はBだけです。

このように、権利を行使することができる人(=権利者)は特定の人です。また、権利内容の実現を請求する相手(=義務者)も特定の人です。

債権の権利者のことを「債権者」、債権の義務者のことを「債務者」といいます。

債権の内容はさまざま

本件売買契約に基づいてBはAに対してどのような権利を有しているでしょうか。Bは本件売買契約の買主ですから、売主Aに対して「テキスト甲を引き渡してくれ」と請求する権利を有しています。

本件売買契約から「金銭を支払ってくれ」「物を引き渡してくれ」という2種類の内容の債権が発生していることが分かります。

債権の内容は、金銭の支払いや物の引渡しだけではありません。【Case2】をみてみましょう。

【Case2】  Eは、Fとの間でEが2時間ピアノを弾き、これに対してFが演奏の代金として2万円を支払う契約を2020年4月1日に締結した。

この契約に基づいてFはEに対して「ピアノを2時間演奏してくれ」と請求する権利を有しています。

このFのEに対する債権のように、お金の支払いや物の引渡し以外の行為を債務者にしてもらうことが権利内容になる場合もあります。

債務とは?

【Case1】のAのBに対する代金債権をBの側からみてみましょう。BはAに対して代金1000円を支払う義務を負っています。この義務の義務者はBという特定の人であり、この義務の権利者はAという特定の人です。債権を債務者の側からみて表現したのが「債務」です。

まとめ;債権とは?

債権は、ある特定の人(債権者)が、他の特定の人(債務者)に対して有している権利です。

債権の内容はさまざまです。ここまでの説明では「代金を払ってもらう」「物を引き渡してもらう」「ピアノを演奏してもらう」といったように債務者が何らかの行為を行うタイプの債権についてみてきましたが、これとは逆に「債務者が何らかの行為を行わないこと」を権利内容にする債権もあります1。そこで基本書等では「何をしてもらう権利なのか」という部分は、「ある特定の行為をすること(あるいはしないこと)」と表現されます。

以上をまとめると、債権とは「ある特定の人(債権者)が他の特定の人(債務者)に対して、ある特定の行為をすること(あるいはしないこと)を請求しうる権利」と定義することができます。


  1. 「債務者が何らかの行為を行わないこと」例;EがFとの間で「Eは夜10時以降はピアノを演奏しない」という契約をした場合に、この契約に基づいてFがEに対して有する債権。

用語説明①物権

(注記)ここでは平成32年4月1日施行予定の民法の規定を前提に説明しています。それ以前の規定は(旧)をつけて区別しています。


今回は、用語説明の第1回目として「物権」について説明します。以下では、物権の一種である「所有権」について説明しながら、物権とは何かということを説明します。

【Case1】  Aは、本屋さんに民法のテキストを買いに行った。Aは1冊の民法のテキストを選び、代金を支払ってこのテキストを受け取った。(この時、本屋さんがAに手渡したテキストのことを以下では「テキスト甲」と表記します)。

代金を支払ってテキスト甲を受け取ったわけですから、テキスト甲はAの物です。

Aとテキスト甲との関係

「テキスト甲はAの物である」という状況を少し堅苦しく表現すると、「テキスト甲はAの所有物である」と言い換えることができます。

テキスト甲はAの所有物ですから、Aはテキスト甲について所有権を有しています。

所有権とはどのような権利か?

民法206条が所有権の内容について規定しています。同条は「所有者は、どのような権利を有するのか?」という問いに解答する形で書かれています。

(民法206条)

所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。


同条の「収益」とは、たとえばAがテキスト甲をBに有料で貸して賃料をとるような場合です。また、土地を所有し、その土地を耕作してそこから作物を収穫した場合、収穫された作物も民法206条にいう「収益」です。

同条の処分とは、たとえばAがテキスト甲をCに譲るとか、Aが不要になったテキスト甲を捨てる場合です。

法令の制限内においてではありますが、民法206条に基づいて、Aはテキスト甲を自由に使用し、収益し、処分することができます。

A以外の人との関係

民法206条には、「所有者が誰に対して所有権を有しているのか」が書かれていませんが、所有権をはじめとする「物権」は、その権利の内容の実現を誰に対しても請求することができる権利です(「誰に対しても」という部分を基本書等では「万人に対して」と表現しています)。

したがって、テキスト甲の所有者であるAは、誰に対しても「自分はテキスト甲について所有権を有している。したがって自分がテキスト甲を法令の制限内において、自由に使用・収益・処分をすることができるようにしてくれ」と請求することがでます。

何もしなくても権利内容を実現できている場合には、「誰に対しても権利内容の実現を請求することができる」ということのメリットを感じることはできません。このメリットを実感することができるのは、誰かから権利内容の実現を妨害されている場合です。

例えば、Aの所有物であるテキスト甲をBが勝手に持ち去って使っているという場合を考えてみましょう。この場合、Bの手元にテキスト甲があると、所有者Aがテキスト甲を自由に使用することができません。これはBによってAの所有権の内容が妨害されている状態です。

そこでAは、テキスト甲の所有権に基づいて「自分がテキスト甲の所有権者である。所有者Aがテキスト甲を自由に使用できるようにしてくれ。そのために、テキスト甲を自分に返還してくれ」とBに対して請求することができます。

まとめ;物権とは

物権とは、「人」が「物」について有している権利です。また、物権は権利内容の実現を誰に対しても請求することができる権利です。したがって、権利内容が妨害されている場合には、妨害している者に対して、権利内容の実現を請求することができます。


条文の読み方;基本編①

(注記)ここでは平成32年4月1日施行予定の民法の規定を前提に説明しています。


【要件と効果】

今回は,条文の読み方について説明します。具体例として民法601条を見てみましょう。

(民法601条)  賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。

民法601条は「どのようなことがあれば,賃貸借契約が効力を生ずるか」という質問に答える形で書かれています。この質問に対して民法601条は,

賃貸借契約は,

  • 当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,
  • 相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約すること

…によって,その効力を生ずる。

と規定しています。民法601条の冒頭部分と最後の部分すなわち「賃貸借契約は」の部分と「その効力を生ずる」の部分をつなげると,「賃貸借契約はその効力を生ずる」という文章になります。この「賃貸借契約はその効力を生ずる」の部分を条文が規定している「効果」と言います。

「賃貸借契約は」と「によってその効力を生ずる」の間にはさまれている部分には,賃貸借契約がその効力を生ずるために必要な条件が書かれています。この必要な条件のことを「要件」と言います。

つまり民法601条の要件は,

  • 当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,
  • 相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約すること

の2つであり,同条の効果は,「賃貸借契約が効力を生ずること」です。

このように条文は,要件と効果の2つで構成されています。多くの条文はここで示した民法601条と同じように,「によって」の前の部分に要件が書かれています。また,条文の主語(民法601条の場合には「賃貸借契約は」の部分)と「によって」より後の部分をつなげるとその条文の効果になります。

ポイント;条文は要件と効果で構成されている

【何について書かれているのかを読み取ろう】

民法601条を冒頭から読んでいくと,「当事者の一方が」という言葉が出てきます。民法601条は賃貸借契約の効力に関する条文なので当事者は賃貸人か賃借人のいずれかなわけですが,条文を冒頭から読んでいる段階ではこの「当事者の一方」が賃貸人のことなのか賃借人のことなのか良く分かりません。しかし,もう少し読み進めていくと「ある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し」というフレーズが出てきます。賃貸借契約で物の使用を相手方にさせるのは賃貸人ですから,民法601条の「当事者の一方」とは賃貸人のことを指すということが分かるでしょう。もし「当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し」という部分を読んでも「当事者の一方」が賃貸人・賃借人のいずれのことを指すのかが分からなかったとしても,その後に続く「相手方がこれに対して賃料を支払う」という部分を読むと,賃料を支払うのは賃借人ですから民法601条の「相手方」が賃借人だということが分かるでしょう。民法601条の「相手方」が賃借人だということが分かれば,残っているもう一方の当事者は賃貸人だということに気づくことができます。そうすると民法601条の「当事者の一方」が賃貸人だということが分かります。

このように冒頭から読んでいて分からなかったとしても,後の方まで読み進めていき,分かりやすいところから言葉の意味を考えていくという方法を取ることで,何について書かれているのかを読み取ることができる場合があります。