【債権法改正メモ】97条2項の新設,97条1項の文言削除及び3項の改正

改正点:

  • 97条1項の「隔地者に対する意思表示」が単に「意思表示」とされた→隔地者間の意思表示であるか否かにかかわらず,意思表示の効力発生時期が到達時であることが明文化された。
  • 97条2項の新設→意思表示の相手方が正当事由なく意思表示の通知の到達を妨げたときには,通常到達すべきであった時に当該意思表示が到達したものとみなされる。すなわち,通常到達すべきであった時から意思表示の効力が生ずる。
  • 97条3項;(新)97条2項が新設されたことにより(現)97条2項が(新)97条3項となった。また文言の一部が改められた。

【現】

(隔地者に対する意思表示)

第九十七条 隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。

2 隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、又は行為能力を喪失したときであっても、そのためにその効力を妨げられない。

【新】

(意思表示の効力発生時期等)

第九十七条 意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。

2 相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。

3 意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。

【附則(平成二九年六月二日法律第四四号)】

(意思表示に関する経過措置)
第六条 施行日前にされた意思表示については、新法第九十三条、第九十五条、第九十六条第二項及び第三項並びに第九十八条の二の規定にかかわらず、なお従前の例による。
2 施行日前に通知が発せられた意思表示については、新法第九十七条の規定にかかわらず、なお従前の例による。

【債権法改正メモ】96条2項及び3項の改正

改正点:

  • 96条2項の「事実を知っていた」が「事実を知り,又は知ることができた」に改められた。
  • 96条3項の「善意の第三者」が「善意かつ過失のない第三者」に改められた。

【現】

(詐欺又は強迫)

第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。

2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。

3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

【新】

(詐欺又は強迫)

第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。

2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。

3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

【附則(平成二九年六月二日法律第四四号)】

(意思表示に関する経過措置)
第六条 施行日前にされた意思表示については、新法第九十三条、第九十五条、第九十六条第二項及び第三項並びに第九十八条の二の規定にかかわらず、なお従前の例による。
2 施行日前に通知が発せられた意思表示については、新法第九十七条の規定にかかわらず、なお従前の例による。

【債権法改正メモ】95条の改正及び規定の新設

【改正点】

  • 錯誤の効果が,無効から取消に改められた(95条1項)
  • 錯誤無効とされる場合が列挙された(95条1項各号)
  • 法律行為の基礎的事情についての認識が真実に反する錯誤があり,その事情が表示されていた場合に当該錯誤を理由に意思表示を取り消すことができる旨が明文化された(95条1項2号・95条2項)
  • 錯誤に表意者に重過失がある場合であっても,相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていた場合に当該意思表示を取り消すことができる旨が明文化された(95条3項)
  • 錯誤を理由とする取消が,善意無過失の第三者に対抗できない旨の規定が新設された(95条4項)

【現】

(錯誤)

第九十五条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とするただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

【新】

(錯誤)

第九十五条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる

一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤

二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤

2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。

3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。

一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。

二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

【附則(平成二九年六月二日法律第四四号)】

(意思表示に関する経過措置)
第六条 施行日前にされた意思表示については、新法第九十三条、第九十五条、第九十六条第二項及び第三項並びに第九十八条の二の規定にかかわらず、なお従前の例による。
2 施行日前に通知が発せられた意思表示については、新法第九十七条の規定にかかわらず、なお従前の例による。

【関連情報】

120条2項が,「錯誤、詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。」に改められた。

【備考】

錯誤の効果が無効から取消しに改められたことにより,「表意者以外の者が錯誤無効を主張することができるか」という問題は生じないこととなった。

【債権法改正メモ】93条1項の改正・93条2項の新設

改正点:

● 旧93条ただし書の「相手方が表意者の真意を知り」が「相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを」に改められ,93条1項とされた。

● 93条2項が新設され,心裡留保を理由とする意思表示の無効を善意の第三者に対抗することができない,とされた。

【現】

(心裡留保)

第九十三条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

【新】

(心裡留保)

第九十三条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

【附則(平成二九年六月二日法律第四四号)】

(意思表示に関する経過措置)
第六条 施行日前にされた意思表示については、新法第九十三条、第九十五条、第九十六条第二項及び第三項並びに第九十八条の二の規定にかかわらず、なお従前の例による。
2 施行日前に通知が発せられた意思表示については、新法第九十七条の規定にかかわらず、なお従前の例による。

【債権法改正メモ】90条の文言一部削除

【改正点】

90条に基づき無効とされる法律行為について,旧法では「…事項を目的とする法律行為」とされていた部分を「…法律行為」に修正

【現】

(公序良俗)

第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。

【新】

(公序良俗)

第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

【附則(平成二九年六月二日法律第四四号)】

(公序良俗に関する経過措置)
第五条 施行日前にされた法律行為については、新法第九十条の規定にかかわらず、なお従前の例による。

【債権法改正メモ】86条3項の削除

【改正点】

86条3項(「無記名債権は,動産とみなす」と規定)が,削除された。

【現】

(不動産及び動産)

第八十六条 土地及びその定着物は、不動産とする。

2 不動産以外の物は、すべて動産とする。

3 無記名債権は、動産とみなす。

【新】

(不動産及び動産)

第八十六条 土地及びその定着物は、不動産とする。

2 不動産以外の物は、すべて動産とする。

3 (削除)

【附則(平成二九年六月二日法律第四四号)】

(無記名債権に関する経過措置)
第四条 施行日前に生じたこの法律による改正前の民法(以下「旧法」という。)第八十六条第三項に規定する無記名債権(その原因である法律行為が施行日前にされたものを含む。)については、なお従前の例による。

【債権法改正メモ】20条1項に制限行為能力者の定義を挿入

【改正点】

20条1項に括弧書きで制限行為能力者の定義が挿入された。

【現】

(制限行為能力者の相手方の催告権)

第二十条 制限行為能力者の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者(行為能力の制限を受けない者をいう。以下同じ。)となった後、その者に対し、一箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす。

2 制限行為能力者の相手方が、制限行為能力者が行為能力者とならない間に、その法定代理人、保佐人又は補助人に対し、その権限内の行為について前項に規定する催告をした場合において、これらの者が同項の期間内に確答を発しないときも、同項後段と同様とする。

3 特別の方式を要する行為については、前二項の期間内にその方式を具備した旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなす。

4 制限行為能力者の相手方は、被保佐人又は第十七条第一項の審判を受けた被補助人に対しては、第一項の期間内にその保佐人又は補助人の追認を得るべき旨の催告をすることができる。この場合において、その被保佐人又は被補助人がその期間内にその追認を得た旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなす。

【新】

第二十条 制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者(行為能力の制限を受けない者をいう。以下同じ。)となった後、その者に対し、一箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす。

2 制限行為能力者の相手方が、制限行為能力者が行為能力者とならない間に、その法定代理人、保佐人又は補助人に対し、その権限内の行為について前項に規定する催告をした場合において、これらの者が同項の期間内に確答を発しないときも、同項後段と同様とする。

3 特別の方式を要する行為については、前二項の期間内にその方式を具備した旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなす。

4 制限行為能力者の相手方は、被保佐人又は第十七条第一項の審判を受けた被補助人に対しては、第一項の期間内にその保佐人又は補助人の追認を得るべき旨の催告をすることができる。この場合において、その被保佐人又は被補助人がその期間内にその追認を得た旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなす。

【債権法改正メモ】3条の2の新設

【改正点】

意思能力を有しない法律行為は無効とする旨の規定を新設

【現】

規定なし

【新】

法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

【附則(平成二九年六月二日法律第四四号)】

(意思能力に関する経過措置)
第二条 この法律による改正後の民法(以下「新法」という。)第三条の二の規定は、この法律の施行の日(以下「施行日」という。)前にされた意思表示については、適用しない。

【関連情報】

「第2章 人」に「第2節 意思能力」が新設され,本条が置かれた。これにより,行為能力(第3節)・住所(第4節)・不在者の財産管理及び失踪の宣告(第5節),同時死亡の推定(第6節)の節番号が1つ繰り下がった。