条文の読み方;基本編③

(注記)ここでは平成32年4月1日施行予定の民法の規定を前提に説明しています。それ以前の規定は(旧)をつけて区別しています。


今回のテーマ

複数の条文の内容から制度全体を理解する①

今回のテーマは、「複数の条文の内容から制度全体を理解する①」です。今回は、「未成年者が行った法律行為の取消し」について学習しながら「複数の条文の内容から制度全体を理解する」方法を学習しましょう。


まず、はじめに今回の学習に必要な条文を以下に示します。いずれも民法の条文です。

第4条 年齢二十歳をもって、成年とする。

第5条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。

2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。

第818条1項 成年に達しない子は、父母の親権に服する。

第824条 親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。


1つの条文だけでは必要な情報の全てを得ることはできない

 まず、民法5条1項をみてみましょう。民法5条1項は、「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。」と規定しています。同項からは、未成年者が法律行為をする場合には原則として法定代理人の同意が必要であること、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については例外的に法定代理人の同意が不要であることが分かります。しかし、この同項だけでは、「何歳までが未成年者か」「法定代理人」とは誰か」「法定代理人の同意を得ずに未成年者が法律行為を行った場合にどうなるのか」といった情報を得ることはできません。

 これらの情報を得るためには、それぞれについて規定してある他の条文を確認する必要があります。以下で、各条文の内容を確認してみましょう。 

未成年者とは?

 ここで、民法4条をみてみましょう。民法4条は、「年齢二十歳をもって、成年とする。」と規定しています。20歳からが成年なわけですから、20歳になる前までが未成年者です。

(情報その1)

民法4条に基づき、未成年者とは二十歳未満の者のことを指す。

法定代理人とは?

 次に、法定代理人とは誰かについて規定している条文を確認しましょう。この点について規定しているのは民法824条本文です。民法824条本文は「親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。」と規定しています。ここに書かれている「その子を代表する」とは、「自分の子どもを代理する」という意味です。代理することが法律によって定められている訳ですから、親権者は、法定代理人だといえます。

(情報その2)

民法824条に基づき、親権者は、子の法定代理人である。

 民法824条本文には「親権者とは誰か」について何も書かれていません。これについては民法818条1項が「成年に達しない子は、父母の親権に服する」と規定していますから、同項に基づき未成年者の父母は未成年者の親権者です。

(情報その3)

民法818条1項に基づき、未成年者の父母は未成年者の親権者である。

 (情報その2)と(情報その3)を合わせて読むと未成年者の父母は未成年者の法定代理人だといえます。

(情報その4)

民法818条1項に基づき未成年者の父母は未成年者の親権者であり、民法824条に基づき親権者は子の法定代理人である。したがって、未成年者の父母は未成年者の法定代理人である。

同意を得ていないとどうなるか

 これについては民法5条2項が「前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。」と規定しています。「前項」すなわち民法5条1項に反する法律行為は、取り消すことができることになります。

(情報その5)

 民法5条2項に基づき、民法5条1項に反する法律行為は、取り消すことができる。

 民法5条2項の「前項の規定に反する法律行為」とは何のことを指すかを確認しておきましょう。条文の読み方(基本編②)で説明したとおり、未成年者が法律行為を行うには原則として法定代理人の同意が必要です(民法5条1項本文)。ただし、「単に権利を得、または義務を免れる法律行為」については法定代理人の同意は不要です(同項ただし書)。したがって、民法5条2項の「前項の規定に反する法律行為」とは、法定代理人の同意を得ないで行われた法律行為(ただし単に権利を得、または義務を免れる法律行為を除く)です。

ここまでのまとめ

(情報その1)から(情報その5)までをまとめると、

20歳未満の者が、その父母の同意を得ずに「単に権利を得、又は義務を免れる法律行為以外の法律行為」を行った場合には、その法律行為を取り消すことができる。

ということになります。

法律学を学習するためには、ここで説明したような方法で、複数の条文を参照して必要な情報を入手しなければならない場合が殆どです。

条文の読み方;基本編②

(注記)ここでは平成32年4月1日施行予定の民法の規定を前提に説明しています。それ以前の規定は(旧)をつけて区別しています。


今回のテーマ

;1つの条文に原則と例外が書かれている場合の条文の読み方

 今回は、条文の読み方(基本編)の2回目です。今回のテーマは「1つの条文に原則と例外が書かれている場合の条文の読み方」です。

読み方の学習用の素材にするのは、民法5条1項です。まずは、条文を確認しておきましょう。

(民法5条1項)

未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。

条文の読み方の基本ルール

民法5条1項は2つの文章で構成されています。

他の条文にも同じような構成(構造)のものが多くあります。

条文の「ただし」の前の一文のことを「本文」といいます。民法5条1項の「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。」という部分は、「民法5条1項本文」といいます。

「ただし」以下の一文は、「ただし書」といいます。民法5条1項の「ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。」という部分は「民法5条1項ただし書」といいます。

本文とただし書の関係

 各条文の「本文」は、原則を規定するものです。民法5条1項本文は「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。」と規定しています。

 なお、「法律行為」について詳しくは民法総則の授業で勉強してください。今のところは「契約を締結したりすること」と認識しておいてくれれば大丈夫です。また「法定代理人」の典型例は「親」です(詳しくは家族法の授業で勉強してください)。

 民法5条1項本文は、「未成年者が法律行為をする場合」に関する原則を定めるものです。その原則とは、「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない」というものです。

(重要ポイント①)

各条文の「本文」は原則を定めるものである。

 次に、「ただし書」について説明します。「ただし書」は、条文の本文が定めていることの例外を規定するものです。

 民法5条1項ただし書は、「ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。」と規定しています。「この限りでない」とは、その条文の本文が規定している原則を適用しないという意味です。

(重要ポイント②)

ただし書の「この限りでない」とは、その条文の本文が規定している原則を適用しないという意味である。

民法5条1項の場合でいえば、

原則;未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。

例外;単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、その法定代理人の同意を得なくてよい。

・・・このように規定されています。

つまり民法5条1項は、「未成年者が法律行為を行う場合」を①単に権利を得、又は義務を免れる法律行為を行う場合と②①以外とに分類し、①については例外的に法定代理人の同意を不要とした規定だといえます。

このように、ただし書は、本文で規定していることの例外を定めています。

(重要ポイント③)

ただし書は、本文で規定していることの例外を定めるものである。

条文の読み方(基本編その1)

(Case2)

 AとBは、2020年4月1日に以下のようなやりとりをした。

A:Bさん、仕事で私は東京に転勤することになりました。今月中には引っ越すので、今、私が住んでいる豊平区にある私の自宅を2020年5月1日から2年間、月額8万円で借りませんか?

B:わかりました。では、2020年5月1日からその建物を私が8万円で借りて2年後にその建物をAに返還することに同意します。

この2人のやりとりによって、いつの時点で「豊平区にあるAの自宅をBがAから借りる」という内容の契約が成立し、その契約の効力を生ずるかを考えてみましょう。

「どのようなことがあれば,賃貸借契約が効力を生ずるか」については、民法601条が規定しています。

(民法601条)

 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。

 民法601条は「どのようなことがあれば,賃貸借契約が効力を生ずるか」という質問に答える形で書かれています。この質問に対して民法601条は,

賃貸借契約は,

当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,

相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約すること

…によって,その効力を生ずる。

と規定しています。

 民法601条の冒頭部分と最後の部分(「賃貸借契約は」の部分と「その効力を生ずる」の部分)をつなげると,「賃貸借契約はその効力を生ずる」という文章になります。この「賃貸借契約はその効力を生ずる」の部分を条文が規定している「効果」といいます。

 「賃貸借契約は」と「によってその効力を生ずる」の間にはさまれている部分には,賃貸借契約がその効力を生ずるために必要な条件が書かれています。この必要な条件のことを「要件」といいます。

 つまり民法601条の要件は・・・

  • 当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,
  • 相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約すること

の2つということになります。

 このように条文は,要件と効果の2つで構成されています。多くの条文はここで示した民法601条と同じように,「によって」の前の部分に要件が書かれています。また,条文の主語(民法601条の場合には「賃貸借契約は」の部分)と「によって」より後の部分をつなげるとその条文の効果になります。

【何について書かれているのかを読み取ろう】

 民法601条を冒頭から読んでいくと,「当事者の一方が」という言葉が出てきます。民法601条は賃貸借契約の効力に関する条文なので、当事者は賃貸人か賃借人のいずれかであるということくらいは予測がつきますが,条文を冒頭から読んでいる段階ではこの「当事者の一方」が賃貸人のことなのか賃借人のことなのか良く分かりません。しかし,もう少し先の部分を読むと「ある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し」というフレーズが出てきます。賃貸借契約で物の使用を相手方にさせるのは賃貸人だから,民法601条の「当事者の一方」とは賃貸人のことを指すということが分かります。

 もし「当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し」という部分を読んでも「当事者の一方」が賃貸人・賃借人のいずれのことを指すのかが分からなかったとしても,その後に続く「相手方がこれに対して賃料を支払う」という部分を読むと,賃料を支払うのは賃借人だから民法601条の「相手方」が賃借人だということが分かります。民法601条の「相手方」が賃借人だということが分かれば,残っているもう一方の当事者は賃貸人だということに気づくことができますから、「当事者の一方」が賃貸人だということが分かります。

 このように冒頭から読んでいて分からなかったとしても,後の方まで読み進めていき,分かりやすいところから言葉の意味を考えていくという方法を取ることで,何について書かれているのかを読み取ることができます。

【AとBとの間に賃貸借契約が成立するのはいつの時点か】

(Case1)を時系列で整理してみましょう。

再度、民法601条の条文自体と、同条の要件及び効果を確認しておきましょう。

(民法601条)

 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。

<民法601条の要件>

当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,

相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約すること

<民法601条の効果>

賃貸借契約が効力を生ずる。

 既に説明したとおり、民法601条は、「どのようなことがあれば,賃貸借契約が効力を生ずるか」という質問に答える形で書かれていますが、「どのようなことがあれば、賃貸借契約が成立するか」という質問に答える形では書かれていません。

 とはいえ、契約が成立しなければ契約の効力が生じるはずがありませんから、民法601条は「どのようなことがあれば、賃貸借契約が成立するか」という質問にも答えているともいえます。このように考えると、民法601条の要件は、賃貸借契約が成立したといえるための要件だともいえます。

 要件とは必要条件ですから、民法601条の2つの要件(当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約することと、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約すること)が充足されていなければなりません。

 次に、「相手方」が約する内容についても注意が必要です。民法601条には、「…相手方がこれに対してその賃料を支払うこと」と書いてあります。ここに書かれている「これ」とは、これより前の部分(当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせること)のことを指します。つまり、当事者の一方が約束したことに応じて相手方も約束をすることが必要です。

 以上のことをふまえて(Case2)の時系列を見てみると、Aが「私の自宅を月額8万円で借りないか?」とBに対して言った時点では、民法601条の前半部分(当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し)に規定されている要件しか充足していません。Bが「わかりました。では、2020年5月1日からその建物を私が8万円で借りて2年後にその建物をAに返還することに同意します。」と答えた時点で、後半部分に書かれている要件(相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約すること)が充足されます。

 したがって、Aからの申出にBが答えた時点が、AとBとの間に賃貸借契約が成立した時点ということになります。

民法とはどのような法律かをおおまかに理解する

1 どのような場面で適用されるか?

まず、どのような場面で適用される法律なのか、Aさんの1週間を例にみてみましょう。

【Aさんの1週間】

  • ドラッグストアでマスクを買った。
  • マスクがなくて困っている友人Bにマスクを5枚あげた。
  • 友人Cから本を借りた。
  • 車で出かけなければならないので賃料1万円を払ってD社からレンタカーを借りた。
  • 弟Eに1万円を貸した。
  • 隣人のFさんのところで家庭教師のアルバイトをしてアルバイト代として4000円をFさんからもらった。
  • Gからプロポーズの返事をもらったのでGと婚姻することにし、婚姻届を豊平区役所に提出した。

 最後の事例以外は、皆さんも類似した経験をしたことがあると思いますし、割と身近な事例だと思います。実は、これらの事例全てが民法の適用対象です。

2 どのようなことが規定されているか

 民法には、多くの規定があります(条文数は1000以上です)。細かい内容は、これから徐々に学習していくことにして、以下ではこれからの学習のために知っておくべきいくつかも項目について説明します。

【何について規定しているか】

 民法は以下の3つの事項を規律する法律です。

1)「人」と「人」との間の権利・義務関係を規律する。

2)「人」と「人」との間の親族関係を規律する。

3)「人」と「人」との間の相続関係を規律する。

【民法上の権利】

(Case1)

 2020年4月1日、AはBとの間で「B所有のiPadをAがBから2万円で購入する」という契約を結んだ(契約を締結した)。

 「購入する」と書いてありますから、AとBとが締結した契約が売買契約だということは分かると思います。

 この契約を締結したことによって、AはBに対して「iPadをAに引き渡せ」という権利を有することになります。また、BはAに対して「代金2万円を払え」という権利を有します。

 これらの権利を抽象化すると、「人(AやB)が、自分以外の人に対して、一定の行為(「iPadをAに引き渡せ」、「代金2万円を払え」)を請求する権利」と表現することができます。このような権利のことを「債権」といいます。

 次に、AやBとiPadについてみてみましょう。(Case1)には、「B所有のiPad」という表現が出てきました。iPadがBの所有物である場合、BはそのiPadについて「所有権」という権利を有しています。

 所有権のように、人が物について有している権利のことを「物権」といいます。

 民法上の権利は、「物権」と「債権」に大別されています。

(定義)

物権:人が物について有している権利

債権:人が人に対して一定の行為を請求できる権利

※このように定義されても、今の時点ではどのような権利なのか具体的にイメージするのが難しいと思います。さしあたり、①民法上の権利は、物権と債権に大別されている、②物権の定義は「人が物について有している権利」であり、③債権の定義は「人が人に対して一定の行為を請求できる権利」である、これらの3点を覚えておいてください。

3 どのような編成になっているか

 2で、民法は、「人」と「人」との間の権利・義務関係・「人」と「人」との間の親族関係・「人」と「人」との間の相続関係を規律する法律であると書きました。

 また、民法上の権利は物権と債権に大別されていると説明しました。民法は、これらをそれぞれの編に分けて規定し、民法の適用対象全体に共通するルールをまとめて第1編に総則として規定しています。つまり、民法は、第1編総則・第2編物権・第3編債権・第4編親族・第5編相続の5編で編成されています。

※赤字で書かれている4つの各項目を1つの編とし、全体に共通するルールを冒頭に「総則」としてまとめて5編としています。

用語説明②債権

(注記)ここでは平成32年4月1日施行予定の民法の規定を前提に説明しています。それ以前の規定は(旧)をつけて区別しています。


今回は、「債権」について説明します。

具体例で確認してみよう

【Case1】  Aは自分が所有している「テキスト甲」を1000円でBに売るという契約を2020年4月1日に締結した(以下これを「本件売買契約」という)。

AとBとの間に締結された本件売買契約に基づいてAがBに対してどのような権利を有しているかを確認してみましょう。Aは売買契約の売主ですから、買主であるBに対して「代金1000円をAに支払ってくれ」と請求することができます。この権利は、「債権」の一種です(「代金を支払ってくれ」と請求することができる権利なので「代金債権」といいます)。

では、「本件売買契約の代金1000円をAに支払ってくれ」とAがCに対して請求したとして、このような請求は認められるでしょうか。

代金を請求する権利は売主が買主に対して有している権利です。他方でCは本件売買契約の買主ではありませんから、売主AはCに対して「代金1000円を支払ってくれ」と請求する権利を有していません。したがってAのCに対するこの請求は認められません。

また、本件売買契約の売主ではないDがBに対して「本件売買契約の代金1000円を自分に支払ってくれ」と請求しても、この請求は認められません。

債権者・債務者

Aだけが、本件売買契約の代金1000円を請求することができる人です。また、Aが代金を請求することができる相手はBだけです。

このように、権利を行使することができる人(=権利者)は特定の人です。また、権利内容の実現を請求する相手(=義務者)も特定の人です。

債権の権利者のことを「債権者」、債権の義務者のことを「債務者」といいます。

債権の内容はさまざま

本件売買契約に基づいてBはAに対してどのような権利を有しているでしょうか。Bは本件売買契約の買主ですから、売主Aに対して「テキスト甲を引き渡してくれ」と請求する権利を有しています。

本件売買契約から「金銭を支払ってくれ」「物を引き渡してくれ」という2種類の内容の債権が発生していることが分かります。

債権の内容は、金銭の支払いや物の引渡しだけではありません。【Case2】をみてみましょう。

【Case2】  Eは、Fとの間でEが2時間ピアノを弾き、これに対してFが演奏の代金として2万円を支払う契約を2020年4月1日に締結した。

この契約に基づいてFはEに対して「ピアノを2時間演奏してくれ」と請求する権利を有しています。

このFのEに対する債権のように、お金の支払いや物の引渡し以外の行為を債務者にしてもらうことが権利内容になる場合もあります。

債務とは?

【Case1】のAのBに対する代金債権をBの側からみてみましょう。BはAに対して代金1000円を支払う義務を負っています。この義務の義務者はBという特定の人であり、この義務の権利者はAという特定の人です。債権を債務者の側からみて表現したのが「債務」です。

まとめ;債権とは?

債権は、ある特定の人(債権者)が、他の特定の人(債務者)に対して有している権利です。

債権の内容はさまざまです。ここまでの説明では「代金を払ってもらう」「物を引き渡してもらう」「ピアノを演奏してもらう」といったように債務者が何らかの行為を行うタイプの債権についてみてきましたが、これとは逆に「債務者が何らかの行為を行わないこと」を権利内容にする債権もあります1。そこで基本書等では「何をしてもらう権利なのか」という部分は、「ある特定の行為をすること(あるいはしないこと)」と表現されます。

以上をまとめると、債権とは「ある特定の人(債権者)が他の特定の人(債務者)に対して、ある特定の行為をすること(あるいはしないこと)を請求しうる権利」と定義することができます。


  1. 「債務者が何らかの行為を行わないこと」例;EがFとの間で「Eは夜10時以降はピアノを演奏しない」という契約をした場合に、この契約に基づいてFがEに対して有する債権。

用語説明①物権

(注記)ここでは平成32年4月1日施行予定の民法の規定を前提に説明しています。それ以前の規定は(旧)をつけて区別しています。


今回は、用語説明の第1回目として「物権」について説明します。以下では、物権の一種である「所有権」について説明しながら、物権とは何かということを説明します。

【Case1】  Aは、本屋さんに民法のテキストを買いに行った。Aは1冊の民法のテキストを選び、代金を支払ってこのテキストを受け取った。(この時、本屋さんがAに手渡したテキストのことを以下では「テキスト甲」と表記します)。

代金を支払ってテキスト甲を受け取ったわけですから、テキスト甲はAの物です。

Aとテキスト甲との関係

「テキスト甲はAの物である」という状況を少し堅苦しく表現すると、「テキスト甲はAの所有物である」と言い換えることができます。

テキスト甲はAの所有物ですから、Aはテキスト甲について所有権を有しています。

所有権とはどのような権利か?

民法206条が所有権の内容について規定しています。同条は「所有者は、どのような権利を有するのか?」という問いに解答する形で書かれています。

(民法206条)

所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。


同条の「収益」とは、たとえばAがテキスト甲をBに有料で貸して賃料をとるような場合です。また、土地を所有し、その土地を耕作してそこから作物を収穫した場合、収穫された作物も民法206条にいう「収益」です。

同条の処分とは、たとえばAがテキスト甲をCに譲るとか、Aが不要になったテキスト甲を捨てる場合です。

法令の制限内においてではありますが、民法206条に基づいて、Aはテキスト甲を自由に使用し、収益し、処分することができます。

A以外の人との関係

民法206条には、「所有者が誰に対して所有権を有しているのか」が書かれていませんが、所有権をはじめとする「物権」は、その権利の内容の実現を誰に対しても請求することができる権利です(「誰に対しても」という部分を基本書等では「万人に対して」と表現しています)。

したがって、テキスト甲の所有者であるAは、誰に対しても「自分はテキスト甲について所有権を有している。したがって自分がテキスト甲を法令の制限内において、自由に使用・収益・処分をすることができるようにしてくれ」と請求することがでます。

何もしなくても権利内容を実現できている場合には、「誰に対しても権利内容の実現を請求することができる」ということのメリットを感じることはできません。このメリットを実感することができるのは、誰かから権利内容の実現を妨害されている場合です。

例えば、Aの所有物であるテキスト甲をBが勝手に持ち去って使っているという場合を考えてみましょう。この場合、Bの手元にテキスト甲があると、所有者Aがテキスト甲を自由に使用することができません。これはBによってAの所有権の内容が妨害されている状態です。

そこでAは、テキスト甲の所有権に基づいて「自分がテキスト甲の所有権者である。所有者Aがテキスト甲を自由に使用できるようにしてくれ。そのために、テキスト甲を自分に返還してくれ」とBに対して請求することができます。

まとめ;物権とは

物権とは、「人」が「物」について有している権利です。また、物権は権利内容の実現を誰に対しても請求することができる権利です。したがって、権利内容が妨害されている場合には、妨害している者に対して、権利内容の実現を請求することができます。


【債権法改正メモ】13条1項10号の新設

改正点:

 被保佐人の同意を得る必要のある行為に「制限行為能力者の法定代理人としてすること」が追加された。

【現】

(保佐人の同意を要する行為等)

第十三条 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。

一 元本を領収し、又は利用すること。

二 借財又は保証をすること。

三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。

四 訴訟行為をすること。

五 贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法(平成十五年法律第百三十八号)第二条第一項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。

六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。

七 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。

八 新築、改築、増築又は大修繕をすること。

九 第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。

2 家庭裁判所は、第十一条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求により、被保佐人が前項各号に掲げる行為以外の行為をする場合であってもその保佐人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。

3 保佐人の同意を得なければならない行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。

4 保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。

【新】

(保佐人の同意を要する行為等)

第十三条 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。

一 元本を領収し、又は利用すること。

二 借財又は保証をすること。

三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。

四 訴訟行為をすること。

五 贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法(平成十五年法律第百三十八号)第二条第一項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。

六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。

七 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。

八 新築、改築、増築又は大修繕をすること。

九 第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。

十 前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。

2 家庭裁判所は、第十一条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求により、被保佐人が前項各号に掲げる行為以外の行為をする場合であってもその保佐人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。

3 保佐人の同意を得なければならない行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。

4 保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。

【新規定の概要】

<具体例>

 他の制限行為能力者の法定代理人として本条1項1号〜9号のいずれかに該当する行為を行う場合,被保佐人は自身の保佐人の同意を得なければならない。

【関連情報】

102条が以下のように改正された。

(代理人の行為能力)

第百二条 制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない。ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、この限りでない。

【債権法改正メモ】557条1項の改正

改正点:

  • 自ら履行に着手した場合であっても,相手方が履行に着手するまでは民557条1項に基づく解除権を行使することができる旨が明文化された(557条1項ただし書参照)。
  • 手付を理由とする解除権を行使するために売主は手付金の倍額を現実に提供しなければならない旨が明文化された(557条1項本文参照)

【現】

(手付け)

1 買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。

2 第五百四十五条第三項の規定は、前項の場合には、適用しない。

【新】

(手付)

1 買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。

2 第五百四十五条第四項の規定は、前項の場合には、適用しない。

【関連情報】

【債権法改正メモ】;526条の改正

改正点:

(現)526条1項が実質的に削除され,(新)526条には意思表示を発信した後に申込者が死亡した場合に関する規定(現行法では(現)525条に規定)が置かれた。に関する規定が(現)526条2項は(新)527条に移動した。

(現)526条が削除されたことによって承諾の意思表示の効力発生時期については意思表示の効力発生時期に関する一般規定である(新)97条に従うこととなる。つまり契約の成立時期は承諾の意思表示が相手方(=申込者)に到達した時点ということになる。

【現】

(隔地者間の契約の成立時期)

第五百二十六条 隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する。

2 申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。

【新】

(申込者の死亡等)

第五百二十六条 申込者が申込みの通知を発した後に死亡し、意思能力を有しない常況にある者となり、又は行為能力の制限を受けた場合において、申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき、又はその相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは、その申込みは、その効力を有しない。

 

【関連情報】

  • (現)525条

(申込者の死亡又は行為能力の喪失)

第五百二十五条 第九十七条第二項の規定は、申込者が反対の意思を表示した場合又はその相手方が申込者の死亡若しくは行為能力の喪失の事実を知っていた場合には、適用しない。

  • (新)527条

(承諾の通知を必要としない場合における契約の成立時期)

第五百二十七条 申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。


条文の読み方;基本編①

(注記)ここでは平成32年4月1日施行予定の民法の規定を前提に説明しています。


【要件と効果】

今回は,条文の読み方について説明します。具体例として民法601条を見てみましょう。

(民法601条)  賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。

民法601条は「どのようなことがあれば,賃貸借契約が効力を生ずるか」という質問に答える形で書かれています。この質問に対して民法601条は,

賃貸借契約は,

  • 当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,
  • 相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約すること

…によって,その効力を生ずる。

と規定しています。民法601条の冒頭部分と最後の部分すなわち「賃貸借契約は」の部分と「その効力を生ずる」の部分をつなげると,「賃貸借契約はその効力を生ずる」という文章になります。この「賃貸借契約はその効力を生ずる」の部分を条文が規定している「効果」と言います。

「賃貸借契約は」と「によってその効力を生ずる」の間にはさまれている部分には,賃貸借契約がその効力を生ずるために必要な条件が書かれています。この必要な条件のことを「要件」と言います。

つまり民法601条の要件は,

  • 当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,
  • 相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約すること

の2つであり,同条の効果は,「賃貸借契約が効力を生ずること」です。

このように条文は,要件と効果の2つで構成されています。多くの条文はここで示した民法601条と同じように,「によって」の前の部分に要件が書かれています。また,条文の主語(民法601条の場合には「賃貸借契約は」の部分)と「によって」より後の部分をつなげるとその条文の効果になります。

ポイント;条文は要件と効果で構成されている

【何について書かれているのかを読み取ろう】

民法601条を冒頭から読んでいくと,「当事者の一方が」という言葉が出てきます。民法601条は賃貸借契約の効力に関する条文なので当事者は賃貸人か賃借人のいずれかなわけですが,条文を冒頭から読んでいる段階ではこの「当事者の一方」が賃貸人のことなのか賃借人のことなのか良く分かりません。しかし,もう少し読み進めていくと「ある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し」というフレーズが出てきます。賃貸借契約で物の使用を相手方にさせるのは賃貸人ですから,民法601条の「当事者の一方」とは賃貸人のことを指すということが分かるでしょう。もし「当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し」という部分を読んでも「当事者の一方」が賃貸人・賃借人のいずれのことを指すのかが分からなかったとしても,その後に続く「相手方がこれに対して賃料を支払う」という部分を読むと,賃料を支払うのは賃借人ですから民法601条の「相手方」が賃借人だということが分かるでしょう。民法601条の「相手方」が賃借人だということが分かれば,残っているもう一方の当事者は賃貸人だということに気づくことができます。そうすると民法601条の「当事者の一方」が賃貸人だということが分かります。

このように冒頭から読んでいて分からなかったとしても,後の方まで読み進めていき,分かりやすいところから言葉の意味を考えていくという方法を取ることで,何について書かれているのかを読み取ることができる場合があります。